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廃校処分取消訴訟の解説

廃校処分取消訴訟について(宇都宮地方裁判所平成17年8月10日判決)

【事案の概要】
Xらは、子供たちへの通学環境・教育環境への影響、地域への影響を検討しないままに一方的に条例制定という形で進められた学区再編制に伴う小学校の統廃合に疑問を持ち、小学校廃校処分取消訴訟新小学校への通学校指定処分の取り消しを求め、訴訟を提起しました。また、行政訴訟特有の訴訟要件審理だけで終わらせないためにも国家賠償請求訴訟も提起しています。両訴訟では、

① 新通学校に指定された小学校に耐震構造の問題があるなど子供たちの教育環境が明らかに悪化していること
② 通学距離が長くなることで、健康面での被害が生じていることなど通学環境が悪化したこと
③ 地域の中核であった小学校を失うことで地域の各種活動に支障が出たこと
④ 子供たちの教育環境として、同学年同クラス程度の希薄な人間関係となる大規模小学校よりも学年を超えた付き合いができる中小規模小学校がよいこと
⑤ 再編成の議論が十分にされていないこと

を主張しました。
行政(市)側は、新小学校の環境は、受任範囲内であり悪化とは言えないとして①②③に対して反論し、子供たちへの教育環境が良いのは、大人数で切磋琢磨できる大規模小学校であると④に対しての反論とし、⑤議事過程については、証拠などの資料を提出することなく「問題なし」というだけでした。

【判決について】
同訴訟については、平成17年8月10日に判決が言い渡されました。判決では、①小学校の廃校処分及び新小学校への通学校指定処分の取消訴訟については、各訴えを却下し、②損害賠償請求については、請求を棄却しました。また裁判所は、編成委員会という重要な議事機関での議事の違法性について十分な検討をしませんでした。
判決では、子供たちに特定の小学校で教育を受ける権利まで保障されておらず、社会生活上通学可能な小学校で教育を受ける権利しか保護されていないとして個別的権利の侵害がないため、市・議会・市長の廃校処分は、行政処分ではない(行政処分性の否定)としたほか、新小学校への通学校指定処分もこれを取り消しても元の小学校が回復するわけではないから訴えの利益がないとして、本質論に入らず、訴訟要件の審理のみでした。なお、本件では、実質判断をさせるべく国家賠償請求訴訟を提起していましたが、同訴訟でも市側が形式的に手続を踏んだことだけを捉え、「手続に違法はない」とするだけで、手続違法についての検討をしませんでした。また、①Xらは、特定の小学校で教育を受ける権利までは保障されていないこと、②(校舎施設の耐震構造をはじめとした教育環境の問題を取り上げることなく)新小学校が通学可能な環境距離にあることだけを捉えて、妥当な選択であることを理由として、Xらの主張を全く認めませんでした。この裁判所の判断は、前述の議事手続の問題を取り上げていないだけでなく、子供たちの教育環境も取り上げることもなく、審理が尽くされたとは言いがたい判決でした。

【訴訟の帰趨】
一審判決で判断されなかった廃校処分の実質的な違法性及び議事手続の違法性についての司法判断を求めるために東京高等裁判所に控訴しました。控訴審では、どのような判決をしても住民と市の間に紛争が残るだけで今後のためにはよくないのではないかと裁判所から和解の勧試がなされました。当方(住民側)は、将来の子供たちにとってより良い教育環境を作ることができるならば、和解をしてもよいという判断から裁判所からの勧試を受け入れ、和解を成立させました。和解では、

① 市は、今後よりよい教育環境を作るべく努力すること
② 市は伝統ある街にふさわしい公教育の在り方を研究検討すること
③ 小学校施設について、地元の意向を踏まえながら有効利用を検討すること

を合意しました。この和解内容は、当初の「小学校廃校処分の取消」という訴訟提起目的からすれば、完全ではないものの将来の子供たちの教育環境の整備を市との間で合意できた点で評価できます。この和解を通じて、合意通りに市が子供たちの教育環境をより良いものとなっていることに期待します。

【コメント】
本件は、平成13年に訴訟提起しており、現在の行政事件訴訟法(平成16年改正、17年施行)前の行政事件訴訟法下でした。そのため、処分性の主張に苦労したり、廃校処分がなされてからの訴訟提起をせざるを得ませんでした。しかし、現行政事件訴訟法であれば、たとえば、「●●小学校で教育を受ける資格(権利)があることの確認訴訟」(実質的当事者訴訟、4条)を提起することも考えられるし、条例制定前に差止訴訟(37条の4)や仮の差止めの申し立て(37条の5第2項)を申し立てることも考えられます。




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