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更正処分取消訴訟について解説

更正処分取消訴訟
― 税理士と税務署職員が通謀して脱税行為を行ったところ、税務署長から更正処分とともに重加算税・過少申告加算税を課された事件 ―

【事案】
Xは、相続で取得し10年を超えて所有していた居住の用に供していた土地建物を譲渡し、自己所有土地上に存在した居住用の借地権付建物を購入し、建物を新築し居住の用に供しました。
Xは、譲渡にかかる所得税について、租税特別措置法(平成7年改正前、以下同じ)36条の6第1項第2号所定の買換特例を適用することが出来ると考えていたが、税務署近くで税理士から声をかけられ、「自分は国税局のOBだ」とか「税務署長は私の部下のようなものだ」「偉い人はみんな知っている」などと言われ、確定申告を任せるように言われました。Xは、税理士に買換特例を受けるために税務署で職員に指導された下書きを見せたが、税理士から「私に任せれば、もう少し安くなるから」と言われたので、税理士の事務所が税務署の前にあることや税務署の掲示板で名前が確認できたことなどから信頼し、確定申告を同税理士に委任することにしました。しかし、税理士は、虚偽の住所地を記載し、長期譲渡所得にかかる一般所得分の必要経費欄に虚偽の額を記載するなどして、長期譲渡所得、総所得金額及び納付すべき税額をいずれも0円とする確定申告書を作成し、税務署に提出しました。そのうえ、税理士は、買換特例の適用を受けようとする旨の記載及び添付書類の添付をしませんでした。提出先税務署の国税統括官は、税理士からの確定申告について、架空経費などの計上により譲渡所得を過少に申告した事実を黙認するなどしてその発生を未然に防いでもらいたいとの請託を受け、謝礼として賄賂を受け取り、過少申告の事実を黙認しました。
その後、税理士と国税職員が通謀して、Xの納税分について過少申告をしていたことが発覚し、税務署長から過少申告加算税及び重加算税付加決定がなされました(第一次決定処分)。さらに、翌日にXの修正申告の際に適用があるとしてなしていた買換特例は適用されないものとして増額更正及び重加算税付加決定がなされました(第二次決定処分)。 Xは、依頼した税理士と国税統括官が自分に無断で通謀して架空申告をしたことで重加算税及び過少申告加算税が課されることや買換特例が税理士が自分に無断で適用しなかったために適用されなくなるのは不当であるとして、税務署長によってなされた第一次決定処分及び第二次決定処分の取消を求めました。
同事件では、申告を委任された税理士が納税者に無断で隠ぺい仮装行為による過少申告をした場合に、委任した納税者Xに

① 重加算税賦課要件である国税通則法68条1項の「隠ぺい又は仮装」があったといえるか
② 過少申告加算税賦課に関して国税通則法65条4項の「正当の理由」があるといえるか
③ 本件で、買換特例の適用を受ける旨の記載や添付資料の添付が出来なかった納税者Xに、租税特別措置法36条の2第5項の「やむを得ない事情」が認められるか
が主な争点となりました。

【判決経過】
イ. 第一審 東京地方裁判所平成14年12月6日判決
ロ. 控訴審 東京高等裁判所平成15年12月9日判決
ハ. 上告審 最高裁判所第三小法廷平成18年4月25日判決(民集60巻4号1728頁)
ニ. 差戻控訴審 東京高等裁判所平成18年9月13日判決<
第一審判決は、①について、本件のように委任した税理士が税務署職員と通謀して不正行為をすることは、通常予想しうるものではなく、これを一般の納税者であるXに防止させることは容易でなく、税理士が隠ぺい仮装行為をしたとしても、それをXの行為と同視できないものと判断しましたが、②③については認めませんでした。控訴審判決も①について控訴棄却したが、②③については、当方の請求を認めませんでした。
上告審判決は、①について、税理士の行為を納税者本人の行為と同視できるかの観点から、納税者が税理士に申告委任した場合には、「納税者において、当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができ、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ、それに基づいて過少申告がされたときには、当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視でき、重加算税を賦課することができる」と判断し、税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけでは足りないとしました。その上でXには、不正行為の認識も疑いもなく税理士に委任しており、不正行為を認識していた事実は認められないものとして、重加算税賦課要件を否定しました。②については、過少申告加算税の制度趣旨は、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする点にあるとした上で、国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当であるとしました。そして、Xには、税理士が税務署職員と通謀して隠ぺい仮装行為をして脱税をすることは想定しがたく、納税者の責めに帰することができない客観的事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合にあたるとしました。Xの主張を認め、第一次決定処分及び第二次決定処分のいずれも過少申告加算税を賦課することは違法であると判断しました。この上告審の判断により、税務署長による第一次決定処分及び第二次決定処分における重加算税及び過少申告加算税の賦課(①②)はいずれも違法であると判断されました。
控訴審で判断されていなかった争点③について判断をさせるために上告審は、控訴審への差戻しをしました。差戻控訴審判決では、③について、租税特別措置法36条の2第4項の趣旨は、買換特例の制度が、課税の時期を原則どおり譲渡時点とするか買換資産の将来の譲渡の時点まで繰り延べるかを納税者の選択に委ねるものであり、その優遇措置の適用を選択したものに限り適用し、かつ必要な添付書類を添付した場合にのみ適用を認めることで大量の事務処理を旨とする税額確定手続における画一的かつ的確な処理の実現を図ったものであるとした上で、第5項の「やむをえない事情」は天災その他本人の責めに帰することのできない客観的事情があって、買換特例の制度趣旨から納税者に対してその適用を否定することが不当又は酷になる場合をいい、納税者の主観的な意思あるいは個人的事情は該当しないと判断した上で、本件のXは、買い換え特例の適用を当然の前提として関係書類を税理士に預けたこと、税理士と国税職員が通謀して不正行為をしていたことなどをあげ、Xには「やむをえない事情」があると判断しました。これによって、第二次決定処分における本税更正も違法であると判断されました。
本件は、10年近くを要した事件でありましたが、税務署長による全ての更正処分を違法であるとして取り消すことができました。



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