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相続発生時の態様の選択について

相続が発生した場合に、相続人が、相続に関し選択するメニューを3種類用意しています。
①単純承認(民法920条)
②相続放棄(民法938条・939条)
③限定承認(民法922条)

①は、一番わかりやすい態様で皆さんが一般に「相続」と呼んでいるケースです。この態様では、故人(被相続人)の資産も負債(借金)も全てを引き継いで、承継するものです。なお、この相続態様の場合には、何か特別な手続をする必要はありません。相続が開始され、自分が相続人となったことを知った日から3カ月間(民法915条)は、どうするかを考えるための熟慮期間であり、この間に他の態様(②③)のための手続をしなければ、単純承認をしたものとされます(民法921条2号)。この態様を選択するのは、
・資産が負債より多いとき
・自分で負債を負担しても残したいものがあるとき
が典型例です。

②は、資産及び負債の全ての引継ぎを拒否する態様です。故人の負債(借金、連帯保証債務を含む)が資産より多い場合に、引き継いでしまうと相続人自身の資産で故人の負債の返済をしなければならない義務が生じるために、この手続が認められています。方法としては、熟慮期間(相続人が相続開始を知ってから3カ月)以内に家庭裁判所に相続放棄の申述(しんじゅつといいます)をしなければなりません(民法939条)。なお、この熟慮期間ですが、審判で伸長してもらうこともできますが、審判をもらわない限り、期間内に行わない限り、①の単純承認とみなされます。
相続放棄申述がされるとその申立てた人は、当初から相続人でなかったことになります。
この相続放棄に関して、注意しなければならないのは、点が何点かありますので注意してください。
ア. 一旦放棄してしまうと後に「実は資産があった」ことがわかっても撤回はできません。
イ. 次の行為をした場合には、単純承認(①)をしたとみなすとしています。
 ・相続財産の全部または一部を処分したとき(民法921条1号)
 ・相続財産を隠匿・消費したとき(民法921条3号)
 ・熟慮期間内に申述しなかったとき(民法921条2号)
  問題となるのは、処分です。どのような場合に処分とみなされるのでしょうか。
  裁判例では、次のような例があります(○:該当、×:該当しない)。
   × 葬式費用の支出
   × 相続人自身が受取人の生命保険金の受領
   ○ 受取人を「相続人」とされている生命保険金の受領
   ○ 受取人指定のない生命保険金の受領
   ○ 資産的価値の高いものの形見分け
   ○ 相続債権の取立受領
   ○ 価値の低い軽微なものの形見分け
   × 香典受領
ウ. 自分が相続人となっていないか注意が必要です。
 民法では、相続人として、
 (ア)配偶者
 (イ)直系卑属(子)、直系尊属(両親)、兄弟姉妹
  を規定し、(イ)については、順位付けがされています。
  第1 子
  第2 両親
  第3 兄弟姉妹
  です。ということは、故人に負債が多い場合でも子が相続放棄した場合には、第2順位の両親が相続人となってしまいますので、子の相続放棄を知ってから3カ月以内に相続放棄をする必要があります。また、両親が放棄した場合の兄弟姉妹の対応も同じです。自分が相続人として放棄しなければならない立場になっていないかの確認が必要です。

③の限定承認ですが、一般には中間的な方法と言われています。承継した資産の範囲内での負債への対応はしますが、それ以上は責任を負わないというものです。この方法が認められているのは単純な理由です。相続人に資産状況や負債状況が正確に把握できないことがあるからです。資産と負債のどちらが多いかがわからない場合に、「万一負債が多くても引き継いだ資産の範囲内でしか責任は負いませんよ」ということが認められているのです。概念としては、資産が多い場合には引き継ぐことができ、逆に負債が万一多くても責任の範囲が引き継いだ資産の範囲内という説明からすると一番安心な方法のように見え、よく法律相談などでも「限定承認」を勧めることがあるかもしれません。ただ、この態様は、手続が大変複雑で面倒です。どう面倒かは、こちらで説明します。



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