教育権訴訟
憲法26条2項では、保護する子女に普通教育を受けさせる義務を規定しています。憲法を元に学校教育法16条では、保護者に9年の普通教育を受けさせる義務を規定しています。そして、17条で小学校・中学校などの9年間の就学義務を規定しています。では、普通教育の就学義務を負う「保護者」とは誰のことを言うのでしょうか。婚姻している夫婦であれば、問題はありません。学校教育法16条では、その規定する「保護者」については、「子に対して親権を行う者」としています。そして、婚姻している夫婦については、父母の親権に服し(民法818条1項)、父母が共同して親権を行うためです(3項)。しかし、離婚などで父親と母親が分かれてしまった場合はどうでしょうか。親権と監護権が一方の親にある場合には、当該親が親権を行う者であるため、問題とはなりません。問題となるのは、親権者と監護権者が分かれてしまった場合です。この場合には、子どもは監護権者の元で生活こそしているのですが、最終的な親権は、他方の親にあることになります。先の学校教育法16条に従うと「保護者」は、「子に対して親権を行う者」とされていますので親権者と読むのが通常の読み方と思われます。
しかし、学校教育法施行令では、1条で学齢簿を住民基本台帳に基づいて編製するとし、児童の入学通知(就学通知)を学齢簿に基づいてするとしています(5条)。
ある事例をご紹介いたします。親権者と監護権者が分かれてしまった子供に対する就学通知が住民基本台帳に基づいて監護権者になされました。この場合、親権者はあらかじめ親権者と監護権者が分かれることを就学通知発送及び学齢簿編製をする教育委員会に通知していました。しかし、親権者に対してなされず、学校行事への参加機会や保護者としての扱いを受けることができず、学校でもその子の「親」として扱われませんでした。そこで、学校教育法及び施行令の当該条文で規定する「保護者」に親権者として該当することの確認訴訟を起こしました(保護者の地位等確認訴訟)。
教育委員会側は、本件事件が行政事件訴訟法4条の確認訴訟であるため、既にその子が学校に通学していることや保護者として扱われないことで不利益が生じる場合がないとして確認の利益がないと主張し、「保護者」をどう解釈すべきかという本論については議論しませんでした。親権者としては、現在は監護権者が通学させているとしても病気や事故などが起きた場合・いじめなどで子供が過酷な状況におかれた場合などの転校や学校へ配慮を求めることができるのはまさに最終決定権を持つ親権者であるが、今確認しておかないと何か起きてからでは遅いと主張しました。この訴訟については、地方裁判所、好悪当裁判所、最高裁判所と争いましたが、結局は、「保護者」についての解釈を示すことなく、確認の利益がないと訴訟要件の判断だけをして終わってしまいました。
しかし、学校教育法16条で規定する「保護者(子に対して親権を行使する者・・・・)」と学校教育法施行令の構造の間の不整合については未だ解決されておらず、今後の法的解釈が示されることが期待される分野です。
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