様々な請負
契約書については既に別の個所(コラム「契約には必ず契約書が必要か」参照)で説明していますが、特に「請負契約」や「委託契約」で問題になることが多いです。たとえば、工事における(下請)契約から広告、ホームページ作成契約、コンサルティング契約といったものまで種々の請負(委託)事案が考えられます。種類は多いもののこれらの契約は共通して、何らかの成果物の完成を目的としています。建築工事であれば建築物、リフォーム工事であればやはり完成物、広告・ホームページといったものもやはり成果物となるでしょう。
合意を証明できればよい
請負契約は、ある仕事の完成を目的とし、それに対する対価としての代金を支払う契約(民法632条)です。ですから請負契約では、単なる合意があればよく、「契約書」を必ず作成する必要はありません。
ただ、どのようなものをもって「仕事の完成」とするか、(お金をもらう場合)「代金」をどの場合に受け取ることができるのかをどう合意するかが重要です。「未完成だ」とか「代金を支払ってもらえない」といった紛争にならなければよいですが、紛争になった場合、合意していたことが明らかにならない限り、その合意内容通りになっているかも不明なため、代金の支払を請求できなくなりかねないのです。ですから、ある「仕事の完成」を目的とし、「代金」支払について約束したことを示すものとして契約書が必要になると言われるのです。大企業とか法務部が設けられている会社では契約書を作成するのが通常です。
では、契約書を作成する余裕がない場合はどう対応するのでしょうか。それは、契約の成立(双方の合意)を証明できるものがあればよいのです。請負のパターンとしては見積書発行→注文という流れになるのが多いようです。合意というのはどの段階でしているのでしょうか。それは注文の段階です。つまり、発注者が注文をし、請負人が注文を受けることで同内容について合意した(契約の成立)といえるのです。ですので、請負人側としては注文書を注文者が発行し、請負人で受領したことが示せればよいのです。
合意したことを示すものとしては、たとえば、注文書をファックスやメールなどで受信した場合のファックス受信歴(いわゆるみみ)やメールの受信記録です。より確実にするためには、注文書に対する「注文請書」を発行できると注文書と合わせることで合意したことが明らかとなりよいでしょう。ただし、注文請書は単に作成するだけではなく、注文者に対して発行しましょう。メールであれば、注文内容のメールに対して、返信をするのです。
仕事「内容」の重要性 ― 仕様書
請負工事については「完成物」の仕様書を作成しておくことをお勧めします。なぜでしょうか。それは完成させる「仕事」内容を明らかにするためです。
たとえば、建築工事であれば、(仕様書という名前ではないかもしれませんが)設計図、建築確認書面といったものがそれにあたるでしょうし、ホームページとか広告、アプリといった場合には仕様書がそれに当たります。この事前に合意した仕様書の通りに完成することが、仕事の完成(成果物)といえるのです。
そして、この仕様書(完成内容)の存在が有用となるのは、追加(変更)と修正の場面です。
追加(変更)は、元の内容(仕様)に追加したり変更を加えたりすることです。元の内容を変えるものですので、追加(変更)作業については、従来の請負とは別に注文者との間で元の仕様をどう修正(変更)するのかと代金の支払について合意してその内容を残しておかないと追加作業に対する代金を受け取ることができなくなりかねません。
対して、修正は元の内容(仕様)になっていないための修正(直し)であり、元の内容に含まれるものなのです。ですので修正のための作業に対する代金支払をする必要は出てこないのです。
よく「追加工事としてやっていたのに、注文主から修正でありもともとの契約の範囲内のものだから作業に対する代金を請求できなかった」という話を聞きます。これはまさに追加であることをはっきりさせていなかったためです。追加工事(作業)代金請求の問題はしばしば起きるものなのです。元々の仕事内容がどこまでのものであるかを仕様書や注文時の書類ではっきりさせておかなかったために、何をもって完成であるかを明確にできないために本来は「追加」作業と主張できるものを修正作業であり、本来の契約代金の範囲内と言われてしまうのです。ですので、可能な限り具体的な仕様、工程、内容といったものを注文(発注)段階でしておきましょう。細かなところまで難しいとしても注文者との間でどのようなものを目指しているのかをはっきりさせておくとともに、追加工事にあたるかどうかを注文者との間で個々の事情の際にはっきりさせておく必要があります。あいまいにしたままに依頼のままに受けてしまうと追加作業を行っているにもかかわらず,代金を請求できないということになってしまうのです。
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