離婚のご相談を受ける中には、「約束した(または調停で決まった)養育費(または婚姻費用)を相手が支払わないのに、子どもを面会交流させるのはおかしいのでさせない」と述べる方がよくおられます。約束した(調停で決めた)内容を守らない相手に対して、自分だけが約束(調停)の通り、面会させるのはおかしいように思う気持ちはよくわかります。
確かに同じ合意または調停の中で約束したものですから相手が約束を守らない以上、拒否することは正しいようにも思えます。しかし、面会させる義務と養育費または婚姻費用を支払う義務は、性質が異なるのです。面会させる義務は、「何かをさせる」義務の一種であり、面会という「行為」を求めるものです。対して、養育費や婚姻費用を支払う義務は、金銭を目的とする金銭債務なのです。前者が行為を求めるものであるのに対して、後者は金銭を目的とする義務です。ですので、双方の義務についての実現方法が異なるのです。
今回の話は、一方が債務(今回でいえば費用の支払)をしない場合に、他方が負う債務(今回は面会させる債務)を拒否して履行しないケースです。そして、当方の不履行に対して、相手方が強制執行等をしてきた場合に、「相手が債務を履行しないから自分も拒否したのであり、適法正当だ」と反論して強制執行を免れることができるのかということです。先にお話したように、双方の債務は行為を求める債務と金銭支払いの債務であり、相互の債務にいわゆる対価性(面会させることへの対価として養育費(婚姻費用)を支払う性質)がありません。養育費や婚姻費用は、あくまで家族の生活を扶養する義務(民法877条)の一環として認められた金銭債務であることに対して、面会交流は、別に民法766条で認められた行為を行う義務なのです。相互の性質が異なるのであり、相手が義務を履行しないからといって自分の義務を拒否することはできないのです。
ですから、相手が履行しない(養育費の不払)のであれば、自分の債務(面会交流)にも拒否するのではなく、自分の義務は履行し、相手の債務について強制執行をしましょう。それぞれの債務について固有の強制執行の方法があります。それについては、項を改めて説明します。